理工系大学院の動向

“研究者”と“高度専門職業人”の養成、目的の明確化が求められる

今日、理工系大学院には、理学・工学の特定の専門分野における“研究者”の養成に加えて、産業界をリードする“高度専門職業人”を養成する役割が求められている。前者は博士課程前期(2年)・後期(3年)の5年、後者は博士課程前期(2年)もしくは修士課程(2年)の修業年限が標準となっている。

研究者の養成における今日的な課題は、研究者の活動領域が学術研究だけでなく、企業の研究開発の場面にも広がっていることへの対応である。専門分野はもちろん、関連領域を横断する幅広い知識を持ち、社会の変化に柔軟に対応できる人材を育成することが必要だ。

また、高度専門職業人の養成においては、進歩する先端分野に即応できる専門技術を高めるとともに、理工学とビジネスを結び付けて考えるマネジメント力の強化が求められている。
ただ実際には、研究者養成と高度専門職業人養成のプログラムを明確に分けている大学院はまだ少ない。今後の動向としては、高度専門職業人へのニーズの高まりに応えて、それに特化した修士課程大学院の設置が検討されていくだろう。

世界的競争力では、「材料科学」「物理学」「化学」「生物・生化学」が一歩リード

世界の研究シーンを牽引する高い研究水準を有する大学院と、幅広く科学技術社会を支える多様な人材を育成する大学院とに役割を分ける必要性が議論されている。理工系大学院のあり方が過渡期にある今日においては、入学希望者が明確な目的を持ち、自ら学修・研究の方向付けを意識的に行っていく必要がある。

現在、理工系大学院全般の教育目標として特筆すべきは、各専攻を横断し実践的に融合させる思考力の研鑽、国際化に対応した多様な文化の理解と語学を含むコミュニケーション能力の向上、技術者としての倫理観、知的財産・工業所有権に関する知識の修得などが挙げられる。横断的な研究に関しては、学生が専攻を超えて自由に学べるよう、柔軟な組織構造へと転換を図っている大学院が増えている。国際化に関しては、一定期間、外国の大学で教育やトレーニングを受けることを奨励する傾向が強まり、海外交換研究制度などが充実しつつある。

理工系大学院において国際的な競争力の強化は大きな課題である。その現状を論文の引用状況から見てみよう。米国の調査会社トムソンコーポレーションが提供する、学術論文引用動向の統計データベース(Essential Science Indicators SM)によると、1996年〜2006年の論文被引用件数で日本が世界のトップ5位以内にランキングされているのは、「材料科学」「物理学」「化学」「生物・生化学」の4分野であった。